March 1-9, 2025 | 12:00-19:00
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2025年3月1日(土) - 9日(日) 12:00-19:00 会期中無休 東京都台東区東上野4-14-3 2F
●グループ展『環世界』の構想 文:田森葉一 生物がそれぞれ独自の時間・空間として知覚し、主体的に構築した世界のことを環世界と呼ぶ。環世界はドイツの生物学者、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した、生物学における概念だが、アーティストと彼らの創るアート作品の存在、そしてそれぞれの作品が並ぶ展示空間を一種の環世界と捉え、この言葉を今展のタイトルとして使ってみたい。 昨年行ったグループ展では、モーダルミュージックの世界(旋律の雰囲気の違いを優先した音楽)をヒントに、「Modal Landscape」という造語の展示タイトルを付けた。各作家が創り出す作品上の景色の違いを楽しみながら、それらの地平を、鑑賞体験を通じて自由に繋ぎ合わせてもらいたいという思いがあった。それでいくと、今回もやはり似たような空間作りをイメージしているように思う。 美人画展や、ねこ展のように、ある一つのテーマやトピックを立てて、そこに合う作品を探し集めるというアプローチは、グループ展の組み立て方としては筋が通りやすいのだと思う。こちらはというと、前回も今回も、プロセスがそれとは真逆だ。文脈の異なる各作家の作品がまず最初に、既に作られた状態から、プロジェクトは始まる。そこからどんな繋がりが見出せるのかは、空間を作り、展示を見て、作家や鑑賞者と対話をしながら考えたい。 分散化、脱中央、多様性などなど、比較的独立を感じる向きの言葉が聞こえるようになって久しい。そうした言葉にも聞き慣れてきた一方、その方向性に対抗するかのように、分断、保守化、自国中心といった言葉もまた聞こえてくるようになった。互いの世界が摩擦なく共存することは本当に難しい。 「どうやらあちらは、こちらとは違う考えをお持ちらしい」という認識が、どこかの段階で起こるのではないかと思う。そのうえで互いに取り合う行動は、静的なものあれば、ときに激しく動的な場合もあったりする。話し合いによる解決か、はたまた戦争か、といった具合に。 環世界においては、どの生物も自身の環世界がすべての世界だと思い生きているとされる(思っているのかは分からないけど)。にもかかわらず、生物たちは摩擦なく全体の中で調和を取りながら存在しているとユクスキュルは定義したそうだ。 同じように考えるなら、私たち自身にもそれぞれの世界がある。 ときどき、自宅の壁の隅っこに蜘蛛の巣を見つけることがある。私にとって部屋の隅っこは特に使い用のない所だが、蜘蛛にとってはそこがおさまりが良いらしい。らしい、というのは、蜘蛛に良いのかどうか聞く術をこちらは持っていないし、蜘蛛もこちらに語り掛ける術を持っていないからだ。 私たちにとって、自分の世界はこうだと表現することは案外、というかかなり難しい。互いの世界の見え方がどれだけ違うのかを知覚することもなかなかできない。それだから摩擦は知らぬ間に起きてしまうかもしれない。(一応、蜘蛛の巣はそのままだ。摩擦は起きていないと思う) 話が分散化してしまったが、ハイパーローカルなギャラリーを運営する身として考えるに、アーティストとは、彼ら自身の世界を探求し、それを私たちにも見える形に創り出す存在と思っている。私たちは彼らの世界の一部を見て、自分と異なる世界が確かにあるということを知る。彼らの世界は、独自で、常に変化する。あちこち交差したり、飛躍したり、とんでもない出来事が起こったりする。でもそれは、私たち一人一人の世界も実は同じだ。とそんなことにも気付く。 彼らは、世界を知るべく旅する。旅の途中、ここへ立ち寄ってもらうときは、彼らがそれまでに発見した、世界の景色がどんなものだったのかを見せてもらう。一つ一つの出来事をこの空間に集めて、互いの物語の来し方行く末に思いを巡らせ、語り続けたい。そしてそれはどこまでも遠いところへ繋がることを発見したい。
Artists
奥天昌樹
Masaki Okuten
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untitled (knitting)
2024 / 130.3×97×3cm / oil, acrylic on canvas
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絵画が孕む美術史的な背景や、モチーフから生じる意味性を画面から意図的に取り除き、普遍的な感覚で人々が触れることのできる絵画表現に取り組む。
近年の主な展示に、GINZA SIX 蔦屋書店、代官山 蔦屋書店、Gallery10 TOHでの個展、J12 contemporary art by Jason(香港)、Gallery Etherでのグループ展など。GEISAI#18ホルベイン賞(2013)、第3回Dアートビエンナーレ優秀賞(2014)、viaart2009 KURATA賞(2009)を受賞。
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金炯紀
Hyeongki Kim
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しわシリーズ
ポンチョ
2023 / h.200cm×w.150cm / 油性染料インク、EVA樹脂
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西村陽一郎
Yoichiro Nishimura
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眼底
2020 / A5 (148×210mm) / Inkjet print
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美学校写真工房修了。撮影助手を経て 1990 年に独立し、フリーランスの写真家として活動を始める。カメラを使わない 写真技法であるフォトグラムやスキャングラムを中心に、植物や水、昆虫、ヌードなどをモチーフとした作品を発表している。
20promising photographers VOL.2(パルコギャラリー)、ヤング・ポートフォリオ(K’MoPA)、’99 EPSON Color Imaging CONTEST、PHILIP MORRIS ART AWARD 2000、TPCCチャレンジ2003(東京写真文化館)などに入選。作品集『青い花』が第58回全国カタログ展にて国立印刷局理事長賞及び金賞受賞。
写真集「青い花」特設ページ
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吉岡雅哉
Masaya Yoshioka
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思春期
2023 / F30(910×727mm) / Oil on canvas
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日常の景色、出来事、人物を対象に、その影響から生まれたイメージを長年に渡り描き続けている。青の時代、囚人ファイル、お月見、思春期、庭いじり、西海岸、コンビニなど、作中のイメージ・世界観は繰り返し描かれ、完結をみない長編小説のようにシリーズ化している。
受賞 トーキョーワンダーウォール賞(2008年)、とよた美術展'07審査員賞(2007年)、シェル美術賞 蔵屋美香審査員奨励賞(2006年)、交換する種 Vol.2 アドバイザー賞(2006年)
The Jean Pigozzi Collection Of Contemporary Japanese Art
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