石黒昭の本棚|Akira Ishiguro's Bookshelf
何を持って「本物」・「まがい物」とするのか。イメージの表層そのものの価値とは何なのか。表層をすりかえることで物質的な表層と心象的な表層との往還を繰り返しながら「虚実の捻じれのはざま」への問い掛けを表現しています。
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MSN-04 SAZABI "Ver.Ka"
コロナ禍で
実は3月後半に持病の線維筋痛症が軽く再発して身体中が痛み、4月に入り緊急事態宣言か出た頃にはいよいよ絵が描けなくなった。新型コロナウィルスが世界中に蔓延する中で、精神的にもかなり無理して描いていた。
そんな中でみんなのギャラリーから「アーティストの本棚」という作家支援企画に声を掛けて頂き、絵画脳から工作脳に切り替えて、「Desire to be a Hero(タイガーマスク)」を作り始めた。そして、この企画の面白いのは作家個人の興味や思想など、普段表に出さない背景も直接展示出来るところ。あの頃は先が見えない不安からか、子供の頃の事を思い出すことが多かった。
子供の頃の記憶で、覚えている一番古い絵を描いている記憶は5歳の頃。そして、小学生の頃に夢中になったのが、ガンダムのプラモデル「ガンプラ」だった。パーツに色を塗って、組み立てるという、僕にとっての工作の原点。なのでこの機会にそれを展示してみよう思い付いた。
社会人になって長らく仕事にしていたのは、業界内でエージング屋と呼ばれている、主に経年変化を表現する仕事。これは子供の頃にガンプラにシルバーのドライブラシをかけていた汚しと思想は一緒で、何も難しいことはなかった。エージングを施すことで"表層"の質感が変わる感覚の面白さを最初に覚えたのはガンプラだった。
5年前、小学生の頃以来作っていなかったガンプラを最後のつもりで、一度本気で作ってみたいと思うようになったが、その後なかなか機会がなく、試作をいくつか作るにとどまっていた。それをこのタイミングでやることにした。何でもいいから手を動かしていたかったし、結果的に日々の不安を一時的に少し逸らす働きがあった。これを作る機会は他に無かっただろう。
エージング屋をやっていたからこその「ゼロ・エージング」というコンセプトで、改造はせずに色の塗り分だけといういつものルールだが、今回は目標設定を高くし過ぎた。ガサツな性格と向き合いながら、上手く力が入らない手で作ったので予想外に時間がかかってしまったが、沼にはまりながらも組み上げてみてガンプラの進化を改めて感じた。これを設計したバンダイはすごいと思う。
今は手を回復させて、少しずつまた絵を描きたいと思います。今後の決まった予定は何もなく、出来る事といったら絵を描くことぐらいだが、"それでもまだ諦めない"と自分に言い聞かせていきたい。